小学生で虫歯にかかったことがある児童は約45%で、年々減少してきています。
一方で、唇を閉じることが苦手な児童は約50%、口で呼吸している児童は30%ほど存在していることが報告されており、年々増えていく可能性が予測されています。
こういった背景もあり、平成30年から日本歯科医学会は「口腔機能発達不全症」を疾患名として設定しました。
これにより、全国の歯科医院で、子どもの口の働きを支援する治療や訓練が活発に行われ始めています。
口腔機能発達不全症は、先天性の疾患などがない健常児において、食べる・話す・呼吸などの機能が十分に発達していない、もしくは正常な機能を獲得できていない状態を指す疾患です。これに当てはまる場合、歯科や耳鼻科などの専門的な支援を必要としていると言えます。実際どういったものが当てはまるのかを次に挙げます。
食べるという行為は食べ物を認識して、口に運び、噛み、舌で丸めて飲み込むという一連の流れから成り立っています。この流れをスムーズに行うことができない原因が口の中にあるかもしれません。
例として、①生えてくるのが遅い歯がある、②歯列不正(出っ歯、受け口、ガタガタに生えている)がある、③痛みを伴うような大きな虫歯がある、④食事中によく食べこぼす、⑤クチャクチャと音をたてて食べている、⑥噛まずにほとんど丸飲みしている、など。
話す機能の中でも、正しい音を出す機能は、一般的には5〜6歳頃に完成すると言われています。カ・サ・タ・ナ・ラの各行の音が正しく発音できていない(たとえば、サカナがタカナになる)場合は、歯科、耳鼻科、両方の目線で原因の捜査と支援が必要かもしれません。
例として、次のようなことが見られることがあります。①普段から上の前歯が口元から見えている、②口を閉じると顎先にシワができる、などの場合、唇がうまく閉じれていないことが考えられます。また、①舌を前に出すとハートの形になる、②口を開けたまま舌で上の前歯を触れない、などの場合、舌をうまく動かせていないかもしれません。唇・舌・頬の筋肉の力不足や不調和、形態異常などによって生じていることがあります。
鼻呼吸は、身体にとって最も適切な呼吸方法とされています。吸った息が鼻腔を通ることで、湿り気のある暖かい空気が肺に届けられます。一方で、吸う息が口を通る“口呼吸”には、歯科的に好ましくない影響が多く生じます(歯列の乱れ、顔面の形態異常、虫歯の誘発、歯周病の憎悪など)。
呼吸機能不全のある児童には次のような傾向があります。①口が乾燥している(口臭が強くなっていることがあります)、②鼻がつまっているわけでもないのに、口で息をしている、③いびきをかいて寝ている、④仰向けで寝始めたのに横向きやうつ伏せで寝ていることが多い、⑤食べ物が飲み込みにくそう、など。
これらの機能不全、子どもたち自身が“異常”として認識していないことが多く、最初に気付くのはやはり、普段から一緒に生活している保護者であることがほとんどです。この機会にお子さんの口元に注目してみてはいかがでしょうか。また、子どもたちだけでなく、70歳以上の高齢者でも40%の方が、口に関する機能上の問題を抱えています。健康な口の土台づくりは生まれてから成人するまでがとても重要です。子どもから成人へ、成人から高齢者へと人の口の中の環境は劇的に変化しますが、一生涯を切れ目なくサポートをしていくことが歯科医院の役割になります。
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